※キラ主ですがつきあってません。 ※つきあってません。 ※サブキャラ乱舞(とくにカンヤ。推してます) ※ストーリーのネタバレはありません。 ※キャラの解釈違い、独自設定などがあるかもしれません。ご注意。
「しゃちょー。まだ行ってなかったんですか」
昼休憩の社内にて。外食からユイが戻ってくると、たいてい施錠されている会議室のドアが
半開きになっていたのでのぞきこむと難しい顔をしている社長がせっせと内職に励んでいた。
「ユイ。お疲れさまー」
一度はユイを見たもののすぐに手元に視線を落としてしまう。
「社長、ダメですよー。ごはんちゃんと食べました?」
「んーん。今はいいや」
「またそんなこと言って。午後から撮影班に同行するんですよね? なんでもいいからお腹に入れといた方がいいです」
誰よりも食いしん坊な社長なのに、一度ひとつのことに没頭してしまうと寝食を忘れてのめりこむ。彼女の悪い癖だった。
ユイはあきれたように肩を竦めると、社長の隣に腰をおろす。
「何してるんですかー?」
「ごめん、ちょっと今話しかけないで。網み目を数えてるんだけど数忘れちゃう」
「あ。編み物してたんですね。すみません。……ん? 社長、そこ!」
「えっ、何?」
目を丸くして手を止めた社長を見て、ユイのやわらかな水蜜桃色の唇がキュッと上がった。
「ひと目、落ちてほどけてますよぅ」
「ぎゃー!」
慌ててひと段落全部ほどこうとした社長の手を押しとどめて、ユイは安全ピンをほつれた場所に入れる。
「リペアフックは持ってます?」
「買ってないんだ……買った方が良かったかな」
「あると便利ですよー。あと段数マーカーも」
「さすがだね、ユイ。この女子力の高さ……」
「えへへー。よく言われますぅ」
ほどいた箇所からもう一度丁寧に編んでいく社長の指先を見ながら、ユイはこてりと小首をかたむけた。
「でもどうして暖かくなってきた今の時期に編み物なんて」
「三ヶ月前からやってたんだよ、これでも。全然進んでないけど」
「もしかしてプレゼントですか、これ。誰に……あ、ひらめいちゃいました私。キラとか!?」
「なんでばれてるの……」
ユイの指摘通り春はそこまできている。毛糸製品などすぐに使わなくなってしまうだろう。
いよいよ時間がなくなってきた。けれど急いで編むとそのぶんミスも増えるので悩ましい。
はぁぁ~と深いため息を社長が落とした時だった。
「失礼しまっす。社長、いますか?」
ひょっこりと会議室をのぞきこむプラチナグレージュの頭。
明るいライトブラウンの瞳がパチパチと瞬く。こちらを見ていたのはカンヤだった。
「お疲れさま、カンヤ。どうしたの? もうロケバス来た?」
「いや、時間的にまだ早いんすけど、たった今キラがここに」
「それを先に言ってよ! カンヤのバカ!」
「なんでだよ!?」
まだこの編み物のことをキラにばれたくない社長は、慌てて広げていた荷物を片付け始める。
おそらくキラは社長に会いに来たのだろう。彼女のひそやかな計画を守らなければとユイも席を立ち上がった。
「カンヤさん、お願いがあります。なんとかキラをここに来ないように時間まで足止めしといてください」
「はぁ!?」
「お願いします。社長のなんかいろいろ大事なものがかかってるんです!」
「あー……よくわかんねえけど、わかったよ」
こういう時のカンヤはとても頼りになる。バタバタと出て行った仲間の背中を見送ると、社長はユイを見て目を潤ませた。
「ユイ~! カンヤも……ありがとう!」
「社長、それ本人に言ってあげてくださいね。あと、お礼はボーナスでお願いします」
「か、考えとく……」
「やったー」
◆
社長が撮影班のスタッフとともに階下に降りてくるのと、カンヤと話しこんでいたキラがパッと顔をあげたのは、ほぼ同時だった。
「サプラーイズ! 親愛なる大プロデューサーさん、迎えにきたよ!」
ふわふわと金色の猫っ毛を揺らして嬉しそうにかけ寄ってくる友人に、社長のまなじりが緩やかに下がる。
「もう、キラってば」と言う口調は憮然としていたが、瞳は怒っていなかった。
「現地集合って言ってたのに」
「いいじゃん、今日は一緒に仕事するんだから。オレのところのスタッフもキミたちもまとめて目的地に運んじゃえば時間の短縮にもなるし」
そう言ってキラは得意げに笑ってみせた。
「社長さん、すみません。こいつ言い出したらきかなくて」
キラの後ろから歩いてきたマネージャーのシンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいえ、キラの気遣いはとてもありがたいです。今日はよろしくお願いします!」
「ほーら、シンさん。オレの言った通りだったでしょ」
「そうかもしれんが調子に乗るな!」
お茶目なアイドルとその相棒とのやりとりにその場にいた皆が吹き出す。
和やかな空気のまま、お互いに挨拶を済ませて撮影機材や荷物をロケバスに積みこむと問題がひとつ起きた。
「ちょーーっとこの人数じゃ狭くない? だいぶギュウギュウよ」
キラ専属のスタイリストであるリサが困ったように呟く。
「カンヤ、お願いしていい?」
「へいへい」
社長とカンヤは視線を合わせて心得たように頷きあった。
「それじゃあ私たちは会社の車で行きます。すぐ後から追いかけますので!」
「えー! ポテチ姫がそっちに行っちゃうの」
「キラはまだ着替えとかメイクとかあるもんね! また後で」
「むー……」
物言いたげなキラの晴空をきりとったような青がわずかに曇る。
内心で手をあわせて社長はさっと会社の車の後部座席に腰を下ろした。
運転席に乗り込みハンドルを握ったカンヤが呆れたようにバックミラーに視線を投げる。
「社長さあ……露骨すぎん?」
「絶対に不審に思われてるよね……」
キラを振り切って逃亡してきたようなものだから、罪悪感がすさまじかった。
付き合ってくれたカンヤには感謝しかない。
「なんなら今からロケバスの方に行くか?」
「それはちょっと。今日中に編み物終わらせたいし。安全運転でお願いします、カンヤくん」
「へーへー。任されましたよっと。企画からリサーチ、ロケに運転手までなんでもこなすカンヤくんですよ」
「ボーナスにご期待ください!」
「さっすが社長! 話がわかる!」
快適に走り出す会社用の車に揺られながら、後部座席に荷物を広げて編み物を再開した。
完成まで、あともうすこし。
◆
撮影は順調に終わった。プロデューサーとして参加していても現場ではディレクターの独断場。
人手の少なさを補うために裏方の細々とした雑事を一手に引き受け走り回っていたらいつの間にか日が暮れていた。
帰りもカンヤの運転する車に乗って会社へと向かう。せっせと内職に精を出しながら、キラを乗せたB.S.エンタテインメントに向かうロケバスを見ていると。
「ーー……!」
視線が、あった。
キラの大きな瞳が見開かれる。まさか彼女がこちらを見ているとは思いもしなかったのだろう。
けれどそんな動揺は一瞬のこと。すぐにニヤッといたずらが成功した子供のように笑うと、ふりふり手を振りながら遠ざかっていった。
「社長、進捗はどーよ」
カンヤに話しかけられ、急いで窓から視線を引き剥がした。ユイからもらった安全ピンを刺し直して、社長は胸をはる。
「あともうすこしだよ!」
「ほんとにィ? さっきも同じこと言ってた気がすっけど」
二人きりでいるせいか、カンヤの口調はだいぶ砕けている。
けれどすぐに思い直した。これは社長としての彼女ではなく、昔なじみとしての彼女にカンヤは話しかけているのだ。
「おまえはずーっと裏方で動いてたから知らねえだろうけど、キラさんちょっと様子がおかしかったんだぞ」
社長が目を丸くすると、気づいてなかったのかとカンヤは眉根を寄せた。
「撮影は順調そうに見えたけど……」
「当たり前だっつーの。仕事なんだから真面目にやってたさ。そこんとこキラさんは徹底してプロだから」
「……いつもサプライズでキラが楽しませてくれるから、そのお礼がしたかったんだけどなあ」
「ちょっとやり方がまずかったかもなー」
カンヤの右手が器用にウィンカーを弾いて、静かに道路に左寄せして停止した。
「行くか? B.S.エンタテインメント」
「行きたい、けど。まだ終わってない……」
「頑張れ頑張れ。もうすぐ終わりそうなんだろ。しょうがねえから待っててやるよ」
社長は力一杯頷くとラストスパートをかけて猛然と編み出した。
◆
「それじゃあお疲れ。また明日な、キラ」
「うん。シンさんもお疲れ様」
「本当に送っていかなくていいのか?」
「ジョギングして帰りたい気分なんだ。トレーニングにもなるし」
「えらいえらい。減量が成功したら今度焼肉に連れてってやる」
「わっ。なでるなよ!」
「ん? 行きたくないのか、焼肉」
「絶対行く!!!」
「ハハ、了解した」
からかい混じりの激励に苦笑しながらB.S.エンタテイメントを後にしたキラは変装用の帽子を深くかぶって
家とは真逆の方向へと走っていた。
(せっかく彼女と一緒の仕事だったのに全然話す暇がなかった)
むしろ避けられていたような気がする。理由もなくそんなことをする彼女ではないが、キラ自身、彼女を怒らせた覚えもない。
となると考えられるのは何かキラに隠れて悪巧みをしている可能性。これしかないと思う。
(ねえ、ポテチ姫。悪気はないんだろうけど、ちょっと傷ついたんだよオレ)
何かを知っているらしかったヘアメ担当のリサや、撮影班に同行していた今回の撮影の企画を立てたというカンヤ。
秘密を共有しているらしい彼女/彼とばかり、あの社長は仲良くしているのだ。こちらの気もしらないで。
考えに夢中になって走っていたら、いつの間にか恋花駅の広場へと足が向いていた。
忘れもしない、彼女と初めて仕事した場所。
しばらく立ちつくし、行き交う人々をぼんやりと眺める。
手を繋いで歩く親子、喧嘩しながら歩く恋人同士、楽しそうにクレープを食べながら帰る学生の友人たち。
みんな国民的大スターがこの場でぼんやりしていることなんて知らず、ガラス球のようなキラの瞳の前を素通りしていく。
(Evolを使わなければ、こうなる。皆が期待してるキラは今のオレじゃない)
急に人恋しくなってきた。確か彼女の会社はこの駅から近いはず。
ポケットからスマホを取り出すと、迷わずかけ慣れた電話番号を入力した。呼び出し音。
プルルルル、プルルル……。
真後ろから聞こえてきたそれに慌ててキラは振りかえる。
「キラ!」
大きなアーモンド型の瞳をこぼれそうに見開いて、スマホを手にこちらへ走ってくる彼女が目に飛び込んできた。
どうしてここに。仕事はもう終わったの?
聞きたいことはたくさんあるのに、変な感動がこみ上げてきて何も言葉が出なかった。
彼女が走るたびにひとつにまとめられたポニーテールが揺れるのが可愛くて、思わずハグしそうになるもののすんでのところで思いとどまる。
そうだ、自分はすこし怒っているのだ。何を企んでいるのかは知らないけれど、キラをのけ者にする彼女のことをーー。
「ごめんなさい!」
けれど彼女が真っ直ぐにキラの胸へと飛びこんでくるものだから、慌てて受け止める。
ぽすんという軽い衝撃の後、ふわりと彼女のうなじから香る甘い花のにおいがキラの鼻腔をくすぐった。
「ポテチ姫?」
「キラ、会えてよかった。今日、せっかく一緒に仕事出来たのにあまり話せなくてごめんなさい」
「オレ、キミに何かしちゃったっけ?」
キラの言葉に驚愕したように彼女はブンブンと首を振る。がさがさとバッグを探して取り出したものを、ふわりとキラの首にかけた。
「マフラー? これ、オレに?」
「いつもお世話になってるからキラにプレゼント。驚かせようと思ってたんだけどなんかコソコソして怪しかったよね……」
もじもじと手を組み合わせる彼女の手にはタコが出来ていた。
もしかして手編みなのだろうか。真っ赤になって何かモニョモニョ呟いている彼女の声はキラにはもう聞こえなかった。
「ありがとう、ポテチ姫! たくさん使わせてもらうよ!」
「もう春だし暖かくなるから今年の冬に使ってね……!」
悲鳴のような声を上げる彼女を無視して、じゃれるようにキラは抱きつく。
心の底からホコホコと温かい気持ちが湧いてくる。彼女はいつもキラのことを太陽のようだと言ってくれるけれど、
キラにとっては彼女の方こそ心にあかりを灯してくれる星のような存在だった。
「オレ、昼間、キミの会社に行ったんだよ?」
「キラにマフラーのことばれたくなくてカンヤに頼んで時間稼ぎしてもらってました……」
「せっかくロケバスで一緒に乗れたらと思ったのに」
「マフラーがまだ編めてなかったのでリサさんに頼んでキラがこっちに来ないように……」
「撮影の休憩時間は?」
「シンさんに頼んで……」
「なんだよ、皆してオレに隠し事してたんじゃないか!」
「みんなキラが大好きだから喜んでほしくて協力してくれたんだよ!」
「知ってるよ!」
あはは、とキラは大きく口を開けて笑った。見上げてくる彼女のおでこにすり、と自分の顔を甘えるようにすり寄せる。
「キミは?」
「ん?」
「キミもオレのこと、だいすき?」
「もちろん!」
「そっか。……そっかあ!」
先ほどまでの鬱屈した気持ちはいつの間にか何処かへ消えていた。
触れているおでこから伝わるぬくもりがとても気持ち良い。
この歓喜を、幸せを、どう彼女に伝えればいいんだろう。すこし悩んでキラはハグした彼女の頬にそっとやわらかなキスを落とした。
end
キラくん誕生日おめでとう!つたないなりに愛情だけはぎゅぎゅっとこめました。 ステラの元ネタはFGOの某英霊様の宝具より。ステラア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!! キラくん可愛いよオオオオオオオ!!!
